手作り感が生み出す磁場 「所沢ビエンナーレ美術展2011 引込線」
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会場も主催者の枠組みも変わってしまった。といっても、横浜トリエンナーレのことではなく、プレ展も含めて3回目となる所沢ビエンナーレのことだ。
戸谷成雄、遠藤利克ら埼玉県所沢市近辺に暮らす美術家たちが手作りで始めた隔年展の主催に、何と今回は文化庁が参加。出品者らが運営費を負担しなくても 済んだそうだが、「国家プロジェクト」の趣とはほど遠い。自主的な運営は相変わらずで、実力派から若手まで約30人が出品している。
それよりも本当の変化は会場が旧車両工場から変わったことだ。新会場は二つで、西武・航空公園駅から15分ほど歩くと、第1会場の同市生涯学習推進センターにたどり着く。
2本の白旗を風車のように回すタムラサトルや中山正樹の大作は体育館の空間を生かし、プールサイドでは遠藤の焼けた木による箱形の枠組みが震災を連想させもする。だが残念ながら、「引込線」の由来にもなった、旧会場の鉄骨むき出しの大空間ほどの魅力はない。
しかし、さらに徒歩15分ほどの旧市立第2学校給食センターの第2会場は、流れ作業用と思える機器の機能美、金属の官能美があり、出品者は、「工場萌(も)え」とも呼ばれる美意識に立ち向かわなければならない。
機器の間に木枠を挿入して異化を目指すかのような篠崎英介に対し、前野智彦は組み立てパイプや拡大鏡を使い実験プラント風の立体を見せる=写真上。その“同化”路線がはまり、元の空間の再解釈にもつながる。
中崎透は金属やプラスチックの道具などを積み、週刊誌から抜き出した複数の文章を張り付ける。「慣れてくると意外としっかりしてそうですね」なんて給食作りにもありそうで、場所を生かしつつ、文脈で意味合いの変わる言葉の性質を突く。
そして、屋外タンクの傍らに置かれた利部(かがぶ)志穂の作品。金属のカゴなどを組み上げ、銀色の風船が漂う=同下。視線が抜ける開放感が、どこか詩的だ。
実際の引き込み線はなくなってしまったが、「吸引力のある磁場を」という副題に込めた思いは、手作り感と、知的、美的な身体反応を思わせる表現が同居する第2会場で、きわどく実現している。(編集委員・大西若人)
▽18日まで。第1会場は同市並木6の4の1、第2会場は同市中富1862の1。7、12日休み。
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